実習報告
HiSOR実習報告
先端放射光科学実習では、最先端の物質科学の研究を通して、放射光を利用した研究を行う上で必要な知識と技術の習得を目的としている。実習は広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)とSPring-8の放射光施設で行っている。
HiSORは小型放射光施設であり、蓄積リングとビームラインの様子が一目でわかる点が特徴である。放射光施設の仕組みを理解するには大変良い場所である。この施設に岡山大学は専用のビームラインを持っている。そのラインでは真空紫外線領域のエネルギーを持つ放射光を用いた研究が可能であり、実習ではこのビームラインを使って、現代エレクトロニクスの根幹物質であるシリコンの電子状態を光電子分光と軟X線吸収分光測定により観測する。HiSOR実習では、課題を通して放射光施設の仕組みや放射光施設を使う上での基本的な考え方を身に付けることに主眼を置いている。
実習は少人数に分けて5回行った。参加者は皆、物理学科の院生である。彼らの研究分野は物性実験、物性理論、宇宙・素粒子であり、放射光実験とはほとんど縁がない。実習に参加した動機を尋ねると、違う分野の研究を体験して自分の研究の幅や視野を広げたい、理論なので実験を体験したい、あるいはSPring-8のような大型放射光施設を利用したいなど、放射光実習に期待を抱いていることが伝わってくる返事であった。
実習は実験ホール内の見学からはじまる。蓄積リングやビームラインなどを目前にして放射光施設の仕組みを界面電子物理学部門のスタッフが丁寧に説明する。初めて放射光施設を体験する院生たちは、興味深そうに話を聞いている。見学後、測定試料のセット、装置の原理・使い方の説明、そして、課題へと実習は進む。課題内容はシリコン表面の、清浄化前後での電子状態の観測とその比較である。作業の一つ一つ、また、課題内容をスタッフであるポスドクの脇田さんが丁寧に説明する。院生達も測定の原理や課題の内容を理解しようと真剣である。この実習では、測定で得られたスペクトルデータは皆でその場で議論し解析をしていく形式にしている。院生たちは積極的に質問および議論をして、得られたデータを解釈していく。少人数実習なので、皆が理解できるまでとことん議論できるのがこの実習の良いところである。
実習は1泊2日、朝から夜まで行われ日程的にハードであるが、参加した学生は疲れも見せず、熱心に課題に取り組んでいる。実習2日目の午後からはレポートの作成に時間を充てているが、内容を読むと課題を理解していることが良く分る。また、実習後の感想から、実習内容には皆概ね満足しているようである。HiSOR実習は2007年1月末まで行い、実習体験者は計18名となった。
HiSOR 実習の感想
(1回目参加の高橋氏)
今回、HiSOR 実習に参加して、個人的にはとても満足して帰ることができました。
特に良かった点は、
- (i)自分の研究分野とは違った分野の知識を習得することができたこと
- (ii)HiSOR という内部の構造を直接見ることのできる放射光施設を使うことで、理解が容易であったこと
- (iii) 実験内容について、すぐに質問して、すぐに回答を得ることができ、理解の消化不良がおきなかったこと、また、そのような先生方の対応
まず、
- (i) について。これから研究を行って行く上で、他の研究分野のことも基礎知識のレベルは最低必要になると思われるのに加え、このような実習によって、新しい興味も自分の中で生まれました。
- (ii) について。初めに SPring-8 のような内部の見えない放射光施設に行くよりも、HiSOR のように内部が直接見え、理解し易い施設を見学することで、誤解も減り、きちんと理解をすることができたと思います。百聞は一見にしかず、と言われるように実際に見て説明を受けるということは大切だと思います。
- (iii) 実験内容について、わからないことがあれば何でも訊いてください、という体制で実験が進められたので、初歩的なことから、専門的なことまで、疑問が生まれた直後に質問することができ、わからないまま乗り過ごすということがありませんでした。これにより、わからないことによるわからないことの連鎖がなくなり、自分なりによく実験や物性を理解できたと思います。これは、先生方の対応のおかげだと思います。わからないことを質問することで、他な疑問点が見つかり、また、さらに次の疑問と、いろいろな疑問が出るにつれて、その説明を受けたり、反論や、話をするなどの、議論がとても楽しかったです。スケジュール的にはかなり押していましたが、それにも関わらず、疑問点に対して、十分に議論できた点が最もこの実習で満足のいった点です。
これらの点で、HiSOR 実習は自分の中でとてもよいものとなり、参加してよかったと思います。
欲を言って、良くなかった点を言うならば、やはりスケジュールがかなり押してしまったことかもしれません。レポートが十分に書けなかった点が心残りではあります。まだ、結果のグラフに対して、バックグラウンドのノイズの起源や、実験方法の工夫など、多くのことを学び、考察しましたが、書く時間が足りなかったためにレポートが中途半端になってしまいました。しかしながら、実験数を減らしたり、議論の時間を減らすのは大変惜しいことだと思うので、レポートは結果の考察などにしぼった方がいいかもしれません。そうすれば、テキストに書いてあること以外で学んだことのチェックにもなります。
最後に、とてもいい実習をありがとうございました。
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(2回目参加感想)
- 内殻の光電子スペクトルや吸収スペクトルはちょうど、自分の分野なので日ごろからなじみ深い分野だったが、今回実験してみることで、何を観測して、結果を出しているのかがわかってより理解が深まった。あと、実験精度を上げるために注意することなどは、日ごろまったく考えていないことだったので、新鮮だった。
- 今回の先端放射光実習では普段は理論の研究室のために実際の物理量などを測定する機会などがほとんどなかったが実際の電子状態を実験ではどのように測定するかを直に触れる良い機会であったと思う。これからもこのような実験に触れる機会があれば進んで参加をしていきたいと思いました。
- 小林先生に「とりあえず,こうゆう実習を企画したのははじめてやから,行ってみておもろいかどうかだけ教えてくれ」といわれて参加した実習でしたが,一言で答えをいえば「おもしろかったです」.SPring-8夏の学校の実習にも参加した経験があるが,それよりもはるかに楽しく思えた.SPring-8は放射線実験初心者の私にとってはあまりにも大規模すぎる施設で設備そのものの意味用途を理解するのに苦労したのに対し,HiSORは小規模でなじみやすかった.むきだしのundulator,はじめて目視した放射線が新鮮だった.2日間にわたり光電子分光に絞って実習が行われた点もよかったと思う.初めて行う実験はやはり2日間くらいやってみないとわからないし,村岡先生,脇田さんも懇切丁寧に教えてくれたので初めての実習でも理解が浸透したように思う.実験屋の私にとっては,もうすこし実際に装置を触ってみたかったという気持ちがある(たとえば資料の切断・trnasfer).また一緒に実習に参加した2人が理論家だったので,理論の人のものごとの考え方に触れられたのもよかった点である.
(3回目参加感想)
- 日ごろの研究生活とはまったく違った分野にふれることにより、基礎とはいえ、物性分野の実験及び知識を体験できたことはとても興味深く、また忘れていた固体物理の基礎を確認することができた。
- HiSORでは照射光施設の全体像が見えるので、KEKやSpring-8より先に来ていればより良い勉強になったのではないかと思った。
- XPSやXASは理論的な観点から今まで見てきたが、今回実際に実験することでさらに理解が深まった。
- 普段している実験とはまったく質の違う実験なのでとても新鮮に感じた。
- このような実験では実験開始までに多くの実験道具を必要とし、一から実験を開始したら非常にきついと感じる。
- 実験が専門外であったので、用語の厳密な意味がわからずすぐ理解するのが難しい場合があり、質問がたくさんでき楽しかった。
(4回目参加感想)
岡崎君は光電子分光を専門とした研究を行っており、既にHiSORやSPring-8での実験を経験しています。そこで今回の実習では、博士課程用の内容である、「自らテーマを考え、実験を実行する」ことに挑戦してもらいました。
自分の研究テーマのボロンドープ超伝導ダイヤモンド薄膜についてHiSOR実習をしました。光電子分光実験を行い、炭素の電子状態を評価しました。実験室の実験と違い、放射光施設を利用する時は時間という制限が加わるので、時間内に良い結果を得なければなりません。だから、予想通りの結果が得られている時は良いのですが、結果が得られてない時に如何するのかという事を直ぐに考えなければいけません。自分にはその切り替える能力がまだ足りていないのを痛感しました。
放射光施設での実験は研究室内での場合より凄い結果が得られるのではないかと期待し、ワクワクしながら実験できました。やはり、放射光施設の実験は楽しいというのを再確認しました。
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(5回目参加感想)
- 今回のHiSOR実習から、放射光は非常に有効性が高いことを理解できた。実験室では出せない強度、必要に応じた波長域の光を取り出せることなど、非常に幅広く応用できることを実感した。また、自分の専門分野と違う実験を行うことにより、自分の知識を深め、物性のおもしろさをさらに実感した。
- 私は何回かSpring-8でX線回折を用いた単結晶構造解析を行ったことがあるので、放射光を用いた実験は初めてではなかったが、光電子分光や軟X線吸収測定などの実験は初めてだったのでとても新鮮だった。また放射光を用いることで色々な実験を行えるということが分かった。
・放射光施設で初めて実験を行い、安全性にはずいぶんと気を使っていることを実際に感じた。実験としては基本的なものであったが、その分原理を理解することができた。
- Spring-8のような巨大な蓄積リングを持った施設がどうしても頭に残るところがあったが、放射光のエネルギーを選択できるという特性を考えると、大きなエネルギーであればいいというものではなく、そのエネルギーの放射光をどのように使うかが重要であると思った。今回のHiSOR実習で行った様々な実験の中でその実感が強くなった。
- この実験を通じて放射光の特徴である、単色性、偏向性などの性質を利用し、Siの特性を観測することによって、放射光としての物理学的性質による物質研究の一端を経験することができたことは、普段の研究活動の中では経験できないこともあったのでとても有意義であったと感じている。
- 第1回 2006/11/21-22
参加者:
俣野和明、広岡慎司(共に鄭研)、高橋雅裕(町田研)、中村裕晃(原田研)
写真1.
脇田さんの説明を熱心にきく院生たち
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写真2.岡山大学ビームライン前にて。
右より、横谷教授、中村、広岡、俣野(前列)、高橋、脇田、村岡助教授
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- 第2回 2006/11/28-29
参加者:片山晴生(原田研)、堀彰宏(小林研)、横山真司(市岡研)
写真3.
試料を測定装置用ホルダーに
セットする様子を眺める院生達
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写真4.参加者
右より、堀、横山、片山
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- 第3回 2006/12/19-20
参加者:尾古昌崇(原田研)、坂本愛理(中野研)、杉原真央(作田研)、美馬覚(田中研)、森信彦(中野研)
写真4.
実習内容のひとつ、光電子分光測定を行っている様子
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写真5.参加者
1列目右より 杉原、坂本、 2列目右より 美馬、森、尾古
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- 第4回 2007/1/23-24
参加者:岡崎宏之(横谷研)
写真6.
光電子分光測定を自ら行う岡崎君
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写真7.参加者
実習に意気投合した岡崎(左)、脇田(右)両氏
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- 第5回 2007/1/25-26
参加者:石綿元(市岡研)、後藤大輔(有本研)、田邊誠(花咲研)、堤康雅(町田研)、森本昌規(池田研)
写真9.
測定データを解析する実習生たち
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写真10.参加者
1列目右より 石綿、後藤、田邊
2列目右より 森本、脇田、堤、平井助手
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