SPring8 実習報告
文字通り微細な構造のみから解析が行えるというのが新鮮
数理物理科学専攻 氏名 柿沼 光之
今回の実習では、Spring8の放射光が高輝度でエネルギー可変であることを生かした、XAFS(X線吸収微細構造)を学んだ。学んだ内容の大まかな概要と、感想を述べる。
- XAFS
試料にX線を当て、そのエネルギーと吸収度のスペクトルを見ることにより、構造を解析する方法。
目的の原子が吸収できるX線波長はその元素ごとに決まっているので、その吸収X線のエネルギー(吸収端)も分かる。吸収端は電子の価数によりずれが生じるので、その違いを観測して原子の電子構造などが決定される(XANES)。吸収したエネルギーにより、光電子がその原子を中心として周囲に放出されるが、近接する他の原子により散乱される光電子もあり、散乱されない光電子と干渉を起こし、結果としてX線スペクトルの振動として観測される。これをXAFS振動といい、これを解析することによって周辺の原子構造を知ることができる(EXAFS、今回はこちら主だった)。XAFSは、XANESとEXAFSの総称である。
- 試料の調製
XAFSにおいて、極端に小さな強度や強度差は検出器では拾うことができないため、適度な吸収・放出を行うだけの量の試料が必要となる。透過XAFSのために錠剤状のペレットを用い、それに含むべき試料の濃度を計算して出す。計算には含有物質各々の原子吸収係数と物質の密度または組成比がわかっている必要がある。それを成型に必要量のBN(窒化硼素、X線透過性が良い)と混ぜてプレスする。
今回、自分のあまり接することのないXAFSというものに触れ、いろいろと楽しめた。
まず、今回の測定用の試料に当てはまるのだが、XAFSにおいて非晶質である物質の解析が可能であることに興味が持てた。いつも結晶構造を扱っている分、文字通り微細な構造のみから解析が行えるというのが新鮮であった。
また試料の調製は、実際に測定した試料の重量計算は行わなかったが、粉末の秤量・調合など、ここに来て初めてやったことだが、その扱いの繊細さを学ぶことができた。
解析では少し触れる程度に収まってしまい、残念ながら実践的なノウハウにはあまり触れることはできなかった。得たエネルギー・派数から求められた隣接原子との距離と、多くのパラメータから決定される値とのフィッティングを行ったのだが、その過程に解析の難解さを知ることができた。
実験とは離れるが、今回の実習に指導にこられた企業の方、またSPring-8の方々と接する機会が持て、この分野で働く社会人としての意見を聞けたことはとてもためになった。
|