岡山大学大学院自然科学研究科 先端基礎科学専攻(物理学・数学・地球科学)  
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 1.[Spring8 実習の感想]

SPring8 実習報告

実際に手を動かしながら学ぶ参加型の授業


数理物理科学専攻 41419128 吉田 力矢

 私は平成19年度11月10日から二泊三日の日程で、文部科学省平成18年度 「魅力ある大学院教育」イニシアティブ:先端基礎科学開拓研究者育成プログラムの一環である 先端放射光科学実習に参加した。今回はご協力いただいた住友金属、SPring-8/JASRIの方々を講師に迎え、 様々な光触媒サンプルの構造解析をXAFS(X-ray Absorption Fine Structure)という方法を用いて行った。
 光触媒は、例えば住宅の壁に塗っておくと汚れがつかない等、様々な生活環境での応用が可能である。 しかしながら、光触媒は最も便利な可視光領域で活性なものを作ることが難しく、さらに実用化のためには 物の表面に薄く塗られた状態でも十分な機能を示す必要があるため、その開発には困難を要する。 住友金属では、光触媒として知られていたTiO2(酸化チタン)ベースに金属元素を添加し複合酸化物とすることで その機能を高めることに成功している。しかしながら、光触媒を製品にするためには更なる機能性の強化が必要であり、 添加した金属元素がどのような配位環境で存在しているかという事や、添加した金属元素の量比と構造の関係、 低温での挙動、また作り方(プロセス)の違いにより出来上がったものに構造に変化があるかなど様々な情報が必要になる。 XAFSは上に述べたような情報を得るのに非常に適した実験手段であり、しかもSPring-8のような 高輝度硬X線を作る事ができる放射光を光源として用いることにより、XAFSの測定時間が大幅に短縮されるため、 多くの試料の測定が可能である。
 今回の実習の最も重要かつ良かった点は、学生たちが多くのことを自分の目で確かめ、 実際に手を動かしながら学ぶ参加型の授業であったことだと考える。XAFSは自身や他の参加者にとって 今まで経験したことのない実験であったが、実際のビームラインを使った講師の方々の説明は非常に分かりやすく、 放射光の連続スペクトルから様々な分光過程(スリット、結晶分光器、ミラーなど)や検出過程を経て、 データが出てくるまでの一連の流れを具体的にイメージできるようになったことは大きな収穫のひとつである。 放射光を使った実験はビームタイム等に制限があり、その機会が非常に少なく、 まして今回のように新たな実験手法を学ぶことは大学院生にとって非常にまれなことである。 その点においても新たな手法を、しかも実際の企業での製品開発のテーマで実験を行い、 サンプルの準備、測定、解析と一連の作業を学生がおこなったことの価値はとても大きく、 私も含め、参加者全員が自分自身のキャリアを考える上での参考にもなったと思う。
 さらに欲をだして希望を述べるとすれば、データのさらなる解析や議論を行ってみたかったことが挙げられる。 今回は日程の関係や企業と連携していたこともあり、EXAFSのデータを解析しただけで、 XANESのデータを詳しく解析・議論するようなことはできなかった。 企業との連携の中で許される範囲のことはできたと思うし、 XAFSのデータをどのようにみればよいかということは初心者が簡単に学べることではないかも知れないが、 自分たちがとったデータを実際に詳しく解析や議論したりする機会があればなお良かったと思う。 例えば、自分たちが持ち帰っても差し支えがなく、かつ一般に構造等が理解されている参照物質などのデータを 取らせてもらい、皆でそのデータについて議論をすることなどができれば理解はさらに深まると思うし、 今後の可能性として考えられると思う。
 もし今後、放射光施設で同様の実習があったとすれば、私はぜひもう一度参加したいと思う。 自身の大学の枠を超えて、初めて出会う人たちと一緒に新たなことを学ぶ機会を得たことに感謝し、 そしてもっと様々な測定手法や分野、さらには放射光施設以外の場所でも同様の参加型の授業・実習が増えることを望む。

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